妖孤伝説 4





八戒が説得を続けている間に と三蔵・悟浄は 

悟空が待っている洞窟の前まで来ていた。

悟空は だけでなく 三蔵と悟浄も来たのには 少々驚いたが、

2人がの事を大切にしている事は知っていたので 喜んだ。

「悟空 ご苦労様でした。

八戒と中の様子はどうですか?」

「八戒が連れて来られてから 誰の出入りもないよ。

攫った犯人は 単独でやってるんじゃねぇの。八戒を攫ったのも一人だったもん。

が来たから 中に入って八戒や村の人を助け出そうぜ。」

皆が頷いて 洞窟の方へと歩き出した時、その中から 

村人達が 出てくる声と足音がした。

八戒が 笑顔で手を振っているのを見て 4人は身体から力が抜けた。

事件は あっけないほどに 片付いてしまったのだった。





村人達に感謝された三蔵一行は その晩 村長宅に招かれて世話になった。

犯人の妖孤とも これから話し合って 2つの村にとってよい道を選ぶと言うことで、

も安心したらしい。

今回一番活躍したのは 八戒とリムジンだと言うことで 

村人からは特にねぎらいがあった。

「でも 妖怪というのは皆さんに失礼ですが、

この桃源郷の状況で 良く正気を保っていると

不思議に思っていたんですよ。何か訳があるんですか?」

八戒は 村長に向かって 尋ねてみた。

「助けていただいたお礼に お話しましょうか。

実は 我々の先祖は 天界という所で 女神様にお仕えしていたそうです。

ある日 狐の化身である先祖は 天界に嫌気がさし 地上へ降りたいと

女神様にお願いしたのだそうです。

最初は お許しにならなかった女神様も あまりに熱心にお願いする先祖を

傷ましくお思いになったのでしょう。お許し下されたそうです。





それで こうして私達 妖孤の村が ここに存在するのですが、

お尋ねになった 正気を皆が保っていられるその訳は、

先祖が仕えていた その女神様がご愛用だった品を この神社に祭って

それをお守りにしているからだと思います。

その品は 女神様の首を飾っていた玉で出来た首輪なのですが、

この里に子供が生まれると その玉が 一粒増えているのですよ。

それで 増えたその一粒を お守りとして 皆が大切に身に付けているのです。

皆さんにお世話になったあの方の村にも たぶんあると思いますよ。

別れて出て行った人たちが 自分達の玉をつなぎ合わせて 

首輪を作ったと聞いたことがあります。

そのお力が 私たちをこうして 守っていてくださるのですよ。」

村長は にこやかに笑いながら 教えてくれた。





三蔵は 村長の話を聞きながら がこの村に来た時に言った言葉を思い出していた。

『万葉さん、貴女 妖孤ですよね。

以前 側に仕えていたモノに 狐のものがいましたから 妖気でわかりました。』

確か そう言っていたような気がする。

天界の女神は あまた存在するが 狐を側に置き またその我儘を許してやるような

女神がいるとするならば それはなのではないかと 三蔵は思う。

黙って酒を飲みながら へと視線を向けると、

も三蔵を見て微笑み そして 右手の人差し指を そっと 唇に触れさせて

(私の事 黙っていて下さいね。)と 合図してきた。

三蔵は やはりなと思ったが 盃を持った手をわずかに上げて 了解のしるしを送った。

にしてみれば 自分に仕えていた者の子孫が いまだに 自分への恩を忘れず

大切にしてくれていることが うれしかったのだろう。

その夜は いつにも増して 機嫌のよいだった。




翌朝。

は 村長宅を出て 玉が飾ってある神社を訪ねてみた。

社に入ってみると 確かに 下界に降る 妖孤に餞別にと渡した覚えのある首飾りが

大切に祭ってあった。

天界での幸せな日々に 自分の胸元を飾っていたものだ。

その美しい色と艶は 今も色あせてはいない。

は指先で そっと触れてみた。

遠い昔の出来事が の胸を 締め付けるように 流れてゆく。

不意に を後ろから 抱きしめるものがあった。

耳のした辺りに 口付けを落としながら 両腕を前にまわして 腰と肩を抱く。

「もう随分昔のことですのに こうして 子孫までが 大切にしてくれているんですね。

私には気紛れのようにして 許してやったことだったのに よほどうれしかったのでしょう。

彼らを守っているのは 私の力ではなく、彼らの想いが何代にも渡って 

この玉に注ぎ込まれた結果だと思います。

それを いまだに私に対してあのように 恩義を感じているかと思うと、

なんだか 申し訳ないように思ってしまって・・・。」





「いいじゃねぇか。

信じるものは 救われると言うだろう。

あいつらは それで 本当に救われているんだ。

黙って 信じさせておいてやれ。」

「えぇ そうですね。

でも 少しだけ 私の力も注いでおいていいですか?」

「あ? あぁ。」

は 両手で印を結ぶと なにやらつぶやき 首飾りに手をかざした。

玉は それに反応して 一瞬だけ輝くと 元にもどった。

「どんな力を入れたんだ?」

「はい 血の浄化作用を少し、子孫を残すのに 障らない程度ですが・・・・、

たとえ 禁忌を犯して 人間や天界人と交わっても 子供にはその罪の証が

現れないように致しました。

私からのせめてものはなむけです。」

は 三蔵のほうに振り向くと 微笑んで 2人は 社を出た。







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